約 5,052,200 件
https://w.atwiki.jp/ao-ohanashi/pages/138.html
蒼「マスター、大丈夫?」 マ「悪いな・・・」 風邪をひいてしまったため、蒼星石に看病してもらっている 蒼「僕の事は気にしなくていいよ・・・ 39度もあるんだから安静にしてなきゃだめだよ?」 マ「ああ、わかってるよ・・・」 蒼「何かして欲しい事とかある? 僕にできる事ならなんでも言って」 マ「じゃあ・・・大好きって言ってくれ・・・」 蒼「なっ・・・!こんな時にまでふざけないでよマスター!」 マ「ふざけてなんかないよ・・・言ってくれなきゃ今すぐ死にそうだ・・・・・・」 蒼(ホントに39度もあるのかな・・・) マ「早く言ってくれ・・・」 蒼「マスター・・・・・・大好き・・・・・・・・・」 マ「ぐはどぅばぁっ!!!」 蒼「マスター!!??どうしたの!?」 マ「いや・・・予想以上に可愛かったから・・・・・・」 蒼「もう!マスターのばか!」 マ「けぺらぱぁ!!!」 蒼「ますたああああああぁぁぁぁ!!!!」 翌日には何事もなかったかように元気になっていた
https://w.atwiki.jp/ao-ohanashi/pages/922.html
水銀党の方々は別にここまで狂人ではありません。 でも少なくとも俺が水銀党時代はこんなだったのでフィクションではありません。 水銀燈は俺の嫁!? ー2nd stageー 「いやまったく、いつものことながら蒼の料理は絶品で。」 「あはは・・そんなことないよ・・ほ・・褒めすぎだってば・・」 まんざらでもなさそうに蒼は顔を赤くして苦笑いする なんだかんだあってあれから二週間ほど経った その間で俺と蒼もすっかり打ち解けて、最初は敬語だった蒼もタメ口で話すようになり 俺も「蒼星石」という長い名前を縮めて「蒼」と呼ぶほどまでになった まぁそれはいいとしてだ。 「にしても、銀様来ねぇなぁ・・」 そう、蒼とはすっかり仲良しさんになれたが 俺の当初の目的であった銀様は声はおろか影すらも見せない 「そうだね・・彼女が目覚めてるとしたら襲ってくるとは思うんだけどね・・ボクも彼女の恨み、買ってるし。」 蒼は自嘲気味に影のある苦笑いを見せた 優しそうなコイツがどんなことを銀様にしでかしたか気になりはするけど・・ あんまり触れて欲しそうじゃないしな、やめておこう。 「つうかアリスゲームが始まってるかどうかもわからないんだろ?確か全員目覚めたらハジマリなんだっけ?」 「うん、だけど水銀燈はそんなこと気にしちゃ居ない。目覚めたらすぐに自らの私怨だけで動き始めるよ。 アリスゲームなんて関係無しに、ね。」 蒼が不安そうに左手で右腕を押さえつける うーん・・やっぱり銀様って怖いのかなぁ。 「ボクは正直まだあなたがわからないよ、マスター?」 不安そうな表情のまま蒼が俺に近づいてきた 俺はそのまま蒼を持ち上げ答えてやる 「何が?」 まぁ殆ど答えの予想はすんでるけどな。 「妬みとか・・嫉みの気持ちで言ってるわけじゃないよ?・・何故彼女なんかと契約したがるの? マスターはきっと・・『本当の水銀燈』を知らないだけだよ・・彼女は・・ただの復讐鬼なんだよ?」 蒼は抱きかかえられたまま俺のシャツの胸部をぎゅっと掴む 「じゃあさ、蒼はその『本当の水銀燈』とやらを知ってるのか?」 「!!」 俺を見上げて蒼は驚くような表情をした 「知ってるのか?」 「・・・わからない。ボクは2つの面の彼女を知ってるけど・・でも!今の水銀燈は・・!」 「『本当』なのか?」 「・・・っ」 蒼の顔が歪む そしてなんだか気まずい空気が部屋中に流れてしまった うーん・・これじゃ俺が蒼をいじめてるみたいだな・・ いじめられるのは好きだけどいじめるのは好きじゃないのになぁ・・ 「ごめんね、マスター。その・・おろして?」 うう・・顔が暗いな・・ とりあえず言われたとおりに蒼をおろしてやる 「ちょっと・・考え事があるから・・一人にさせて?」 「あ・・お・・おう。」 そう言い残すと小走りで風呂場に入っていってしまった うーん・・怒らせちゃったかな?それとも凹ませちゃったかな? 「女心は難しいなぁ・・」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「はぁ・・・」 なんか、喧嘩みたいな形になっちゃったなぁ マスター・・怒ってるかなぁ? でもマスターも・・悪いよ。 いっつも・・マスターは水銀燈の話ばかり嬉しそうにして・・ 水銀燈のことを話してる時だけ・・見たことも無いほどの笑顔をするんだ・・ ボクの話では絶対にでてこない笑顔・・ 「って・・これじゃあただのヤキモチじゃないか!ボクのバカ!」 両手で強く頬を叩いてみた よし!大丈夫!立ち直れた! 嫉妬・・ヤキモチなんて・・そうだよ、ボクがしていいハズはない。 ボクは・・ドールなんだ・・ただの。 人と・・なんて・・ ってあれ? ぼ・・ぼぼぼぼくは何を言ってるんだ!? 人と・・なんて・・何!? ぼくは・・マスターのことが・・? いやいやいや!そ・・そんなことは! ぼくは人形!マスターはマスター!それだけじゃないか! なのに・・ボク・・ うあああああ!?違う違う!ボクはただ人形として水銀燈がうらやましいだけで! 決してそんな・・す・・すk・・だ・・う・・あああ・・・ 「いつの間にそんな頬を真っ赤に染める生娘みたいな娘になったのかしらぁ」 ! 聞き覚えのある声・・ ねちっこくて憎悪がこもったあの声・・! 「水銀燈!?」 「あらぁ、久しぶりなのにその表情はあんまりじゃなぁい?うふふ・・」 振り向くと正面の大きな鏡の中から水銀燈が現れて言った この女は・・っ! 「それにし・て・も・・ダレのことを思ってあんなに頬を染めてたのかしらぁ?」 「その小憎たらしい笑みをボクに見せるなっっ!レンピカ!」 ボクはすぐさま庭師のハサミを召還し臨戦体系を取る。 元はといえば全部彼女のせいなんだ・・!このモヤモヤ全部ぶつけてやる! 「あらあら・・こわぁい・・さっきまでの可愛い顔はどこへ言っちゃったのかしらぁ?ねぇ?蒼星石ィィ!」 迂闊だった。 彼女の強さをすっかり忘れていた。 気付けば黒い羽のカタマリがボクの腹部に直撃していた このダメージはっ・・! 「うぐっ・・あっ・・!」 目の前がぐるぐるする しっかりと・・立てない! 「あぁら・・接近戦ではあなたの方が上かと思ってたけどそうでも無いみたいねぇ・・?油断しちゃったのかしら? うふふふふ・・最強のドールを目の前にして・・?ばっかじゃなぁい!」 そう言うと水銀燈はボクの頭を強く踏みつけた 「ぅぐ・・ああ!」 「いいわぁ・・このままローザミスティカ・・もらっちゃおうかしらぁ?」 この顔だ・・!ボクは・・彼女の・・この顔が・・大嫌いなんだ! 人を見下した、蔑んだ、嘲笑った、この顔が! それなのに・・くそっ!立てない・・ 最初の一撃が・・ここまで後を引くか! 「それじゃ、おやす・・ バターン! 「蒼!?どうした!?大丈夫・・か・・・」 間一髪マスターがドアを開けて入ってきてくれた・・け・・ど・・ 最初は心配そうに汗までかいていたマスターの顔がみるみる愉悦にそまっている そんな・・この状況を見ても・・あなたは? 「銀様嗚呼あああああぁあああぁぁぁあぁぁあ!」 「きゃあ!?」 まばたきするヒマもなくマスターは水銀燈に飛び掛っていった これが倒すためならカッコイイのに・・ と・・とにかく、助かった・・ けど・・このままじゃマスターが! 「銀様あああぁぁぁああ!今みたいにして踏んでください!罵ってください!蔑んでください!ああぁぁあ!」 「ちょっ・・こら!離しなさいよ!何人間ごときが私の脚に触って・・!ばっかじゃないのぉ! くっ・・離さないとこのまま・・殺すわよぉっ!?」 水銀燈が黒い羽をマスターに向けた 「なっ・・マスター!あぶなっ・・」 ダメだ!間に合わない・・ マスター逃げ・・ 「死になさぁい!」 「うぐおあああああああああ!」 「ますたあああああああああああ!」 直撃・・! 今のは人がくらったら・・・って・・あれ? 「はぁ・・はぁ・・さすが銀様・・過激なお一撃で・・も・・もっと・・もっとくださいぃぃいい!」 唖然とするしかなかった そんなめちゃくちゃな、『趣味』って理由だけで致命傷を避けれる一撃なのかい・・?今の・・ 「ちょ・・な・・なんなのよぉ!こいつぅ!やだっ・・離しなさいって!ちょっ・・ああもう!気色悪いったらありゃしない! 蒼星石ぃ!?こいつをどうにかしなさぁああい!きゃあっ!?どこ触ってんのよぉ!ひゃん!や・・やめなさぁい!」 「はぁはぁ・・銀様!銀様の脚!銀様の生脚が目の前に!眩しい!眩しくて失明してしまいそう! でも失明したら銀様の御姿が二度と拝見できない!厭だ!そんなの厭だ!ってぐほぉ!ああ! うおおあああ!もっとぉ!もっと羽をくらさいい!」 出来れば・・今は関わりたくないな・・ というか、言っても聞いてくれる気がしない 「ほら、マスター?落ち着いて?水銀燈・・その・・困ってるから・・ね?」 「蒼・・で・・でも!銀様が!銀様が目の前に!おれ・・俺は!」 まさかここまで病的だとは思わなかった・・ いつも話してる時もテンションは上がるけどここまでじゃなかったし・・ 「はっ・・はぁ・・はぁ・・ちょ・・ちょっと蒼星石!卑怯よぉ!なんなのそのデタラメ人間は!」 「『知らない』って今は言いたいけど・・恥ずかしながらボクのマスターです・・」 ああ穴があったら入りたい というかこの気持ちは本来マスターがなるもんだと思うんだけど・・ 「くっ・・今日はもう帰るわぁ・・興醒めだし・・真紅も目覚めたみたいだしねぇ・・次はあんたのローザミスティカもいただくし その穢らわしい男の息の根も止めるからね!覚悟してなさぁい!」 「あ・・あはは・・なんか・・ごめんね?」 額に怒りマークがあがってるのが想像できるほどの勢いで怒鳴り散らして水銀燈は帰っていった あそこまで動揺した水銀燈・・初めて見たかも。 「うう・・銀様ぁ・・銀様がぁ・・」 マスターは床に散らばった羽を抱えて泣いていた 良く考えればボクは主人であるマスターの願いを・・無理矢理引き剥がしてしまったんだ・・ あまりにも病的だったから気付かなかったけど・・ それほど・・想いが強いってことだよね・・ 「ごめんね、マスター」 ボクはマスターのそばにちょこんと座り、そう言いながら頭を撫でてあげた 「う・・ぎ・・銀様・・!?銀様あああああ!」 !? ズキュウゥゥゥゥン 突然マスターがボクに・・覆いかぶさって・・唇・・を・・・? 「うおおおおおおおお!俺は!銀様の・・くちび・・あ・・あれ・・?」 気まずい空気が流れる どうやらマスターも自分のしたことに気付いたらしい 「え・・えっとその・・蒼を・・あれ?」 「・・ま・・まままままま・・ますたぁの・・・アホ―――――――――――ッッ!!」 「え!?いや!その蒼さん!これは事故でして!そのハサミをしまっ・・ああ!もっと!もっとぉおお! ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」 マスター ドール:蒼星石 .リ .タ .イ .ヤ 再起不能 To be continued..→ つづく・・かも
https://w.atwiki.jp/ao-ohanashi/pages/710.html
←前回へ ツアコンの黒崎さんの音頭で宴会が始まる。 黒「じゃ、じゃあ・・・皆さんお楽しみ下さい。あとは流れ解散で結構ですから。」 めいめい料理に舌鼓を打ったり楽しそうに話をしている。 しばらくして隣のみっちゃんさんから声をかけられた。 み「あら青木さん、あまり食が進んでませんね。お口に合いません?」 マ「いえいえ、美味しいですしボリュームもたっぷりで文句なしですよ。ただ・・・・・・」 そこで少し声のトーンを落とす。 み「・・・なるほどそういう事。じゃあ私もお付き合いするわね。」 小声で答えが返ってくる。 マ「ところでお聞きしたいんですが、ひょっとして今回の旅費って一部負担していただいたりしてませんか?」 み「あらそんな事ありませんよ。なんでそんな風に思ったんですか?」 マ「いえ、さっきここの料金表を目にしたんですが、二泊して部屋も料理もいいのにあの値段は安すぎやしないかと。」 み「まあ今回の幹事さんがすごかったんじゃないのかしらね。」 マ「そこまで変わるものなんですかね。」 み「うふふ、その業界にいると外から分からないノウハウというものが案外あるんですよ。」 マ「なるほど、そうかもしれませんね。」 そこで一旦話を打ち切って、またちまちまと料理に手を付ける。 しばらくして今度は残りの女性陣、桜花さんと山田さんが話しかけてきた。 梅「あら、ぜんぜん食べてないじゃないの。ダイエット中?」 マ「違いますよ。多少の旅の疲れと、あとちょっとお昼を食べ過ぎたのかもしれませんね。」 梅「そういえば二人分は食べてたわね。」 山「体調は大丈夫ですか?まだ初日ですしあまり無理なさらないで。」 マ「ええ、ありがとうございます。それよりも桜花さんに元気が戻られたようで何よりです。」 梅「皆さんに心配かけてごめんなさいね。でもいろいろと励ましてもらったしもう平気よ。」 その時ちょっと離れたところで何かが倒れるような気配がした。 そっちを見ると黒崎さんが横たわっている。 マ「あの、大丈夫ですか?」 とっさに駆け寄り声をかける。 黒「・・・ううっ、放っといてくれ!」 今までと違う剣幕にちょっと怯む。 白「あーあー飲み過ぎみたいですね。」 山「あ、白崎さん。どうしましょうか?」 白「騒ぐとまずいですし、もう厄介な仕事も無いはずですから私が部屋まで運んじゃいますね。」 梅「そうですね、私達も早々に引き上げればいいですし、それでお願いします。」 白「じゃあ失礼しますね。よっ・・・と。」 帰っていく二人の後姿を見送る。 梅「まあ怒鳴られた事は気にしないで。」 マ「いえ、別に平気ですけど。」 山「あの人ね、軽度の対人恐怖症でその上に女性が苦手みたいなの。」 梅「そうそう。それなのにこんな仕事に就くことになっちゃったそうだから人生ってままならないわよね。」 マ「そうなんですか。お二人とも詳しいですね。」 山「お昼に白崎さんから聞いたんですよ。いろいろあるかもしれないけれどあまり気にしないでやってくれと。」 梅「まあ四六時中行動を共にするんじゃないしやる事やってくれればいいんじゃない?」 やる事をやり切れていない気もするけど・・・。 まあ当人が一番大変そうだしそこは気にしないでおこう。 結局そのまま引き上げることになった。 旅館側に事情を説明し、今日中に食べるとの約束で残った料理を詰めてもらった。 梅「旅館の人と確認をする事がちょっとあるみたいなの。皆さんはお先に帰っててください。」 の「でもなんか申し訳ないですし私達も残りますよ。」 山「平気よ。私も残るし二人もいれば大丈夫だから。」 梅「子供は早くお休みなさい。」 山「青木さんもお疲れみたいですし気にせず戻ってくださいな。」 マ「じゃあお言葉に甘えさせていただきます。」 桜花さんと山田さんを残して全員引き上げることになった。 マ「ただいまー。」 蒼「お帰りなさい!」 翠「おっ、裏切り者が来やがったですよ。」 部屋には薔薇乙女が勢揃いしていた。 マ「なんで皆ここに?」 雛「くんくん見てたの。」 金「ここなら美味しいお茶が飲めるって聞いたかしら。」 真「紅茶がないのは我慢してあげるわ。」 口々にそんな事を言ってきた。 み「あら皆いるじゃない。ちょうどいいわね。」 の「おじゃましまーす。」 ジ「お邪魔します。」 蒼「皆してどうしたの?」 マ「料理を詰めてもらったからね。ささやかだけど皆で宴会でもやりたいなってね。」 真「あら、宴会を。」 雛「うれしいのー!」 翠「お前にしては気が利きましたね。褒めてやるです。」 金「これでひもじい思いをしなくてすむかしらー!!」 マ「でも持ってきた分で足りるかな?」 金糸雀の発言に少し不安を覚える。 み「じゃあ飲み物と一緒に食料も買い出してきましょう。」 マ「そうですね。その辺にお店もありそうですし。」 み「離れの方に自販機コーナーがあったわよ。」 マ「じゃあ荷物持ちはしますよ。」 金「カナも行くかしら。」 翠「行っても抱っこされてるだけですからただのお邪魔ですよ。」 マ「まあまあ、買ったとしても片手で持てるくらいだろうから平気だよ。」 蒼「じゃ、じゃあさ、僕も着いていこうかな。」 マ「おっ、嬉しいこと言ってくれるねえ。ぜひお願いしちゃおうかな。」 の「じゃあ私達は部屋で支度してますから買出しをお願いします。」 金「♪」 み「あらカナったらゴキゲンね。」 金「宴会が楽しみかしら♪」 マ「♪」 蒼「ふふふ、マスターもご機嫌だね。」 マ「蒼星石をこうして抱っこできてるからね。」 蒼「い、いきなり何を言うのさ。」 み「あらあら本当に仲良しさんね。」 そんなこんなで離れに向かっていると入り口の辺りに人影が見えた。 み「あれは・・・山田さんかしらね。」 マ「そうみたいですね。あんなところで何してるんでしょうね?」 どうやら一通り済ませて帰ってきたようだ。 傍には桜花さんらしき姿もあった。 マ「あのお疲れさ・・・」 声をかけようとしたところであるものに気付いて絶句する。 とっさに蒼星石の目を手で隠したが、腕の中で動揺する気配が間違いなく伝わってくる。 今となっては蒼星石を連れてきた事を猛烈に後悔していた。 連れてこなければこんなものを見せずにすんだのに。 目の前のものは腹を裂かれ中身をブチ撒けられた上に四肢まで切り刻まれ、既に人間の姿を失っていた。 ツアコンの黒崎さんの音頭で宴会が始まる。 黒「じゃ、じゃあ・・・皆さんお楽しみ下さい。あとは流れ解散で結構ですから。」 めいめい料理に舌鼓を打ったり楽しそうに話をしている。 しばらくして隣のみっちゃんさんから声をかけられた。 み「あら青木さん、あまり食が進んでませんね。お口に合いません?」 マ「いえいえ、美味しいですしボリュームもたっぷりで文句なしですよ。ただ・・・・・・」 そこで少し声のトーンを落とす。 み「・・・なるほどそういう事。じゃあ私もお付き合いするわね。」 小声で答えが返ってくる。 マ「ところでお聞きしたいんですが、ひょっとして今回の旅費って一部負担していただいたりしてませんか?」 み「あらそんな事ありませんよ。なんでそんな風に思ったんですか?」 マ「いえ、さっきここの料金表を目にしたんですが、二泊して部屋も料理もいいのにあの値段は安すぎやしないかと。」 み「まあ今回の幹事さんがすごかったんじゃないのかしらね。」 マ「そこまで変わるものなんですかね。」 み「うふふ、その業界にいると外から分からないノウハウというものが案外あるんですよ。」 マ「なるほど、そうかもしれませんね。」 そこで一旦話を打ち切って、またちまちまと料理に手を付ける。 しばらくして今度は残りの女性陣、桜花さんと山田さんが話しかけてきた。 梅「あら、ぜんぜん食べてないじゃないの。ダイエット中?」 マ「違いますよ。多少の旅の疲れと、あとちょっとお昼を食べ過ぎたのかもしれませんね。」 梅「そういえば二人分は食べてたわね。」 山「体調は大丈夫ですか?まだ初日ですしあまり無理なさらないで。」 マ「ええ、ありがとうございます。それよりも桜花さんに元気が戻られたようで何よりです。」 梅「皆さんに心配かけてごめんなさいね。でもいろいろと励ましてもらったしもう平気よ。」 その時ちょっと離れたところで何かが倒れるような気配がした。 そっちを見ると黒崎さんが横たわっている。 マ「あの、大丈夫ですか?」 とっさに駆け寄り声をかける。 黒「・・・ううっ、放っといてくれ!」 今までと違う剣幕にちょっと怯む。 白「あーあー飲み過ぎみたいですね。」 山「あ、白崎さん。どうしましょうか?」 白「騒ぐとまずいですし、もう厄介な仕事も無いはずですから私が部屋まで運んじゃいますね。」 梅「そうですね、私達も早々に引き上げればいいですし、それでお願いします。」 白「じゃあ失礼しますね。よっ・・・と。」 帰っていく二人の後姿を見送る。 梅「まあ怒鳴られた事は気にしないで。」 マ「いえ、別に平気ですけど。」 山「あの人ね、軽度の対人恐怖症でその上に女性が苦手みたいなの。」 梅「そうそう。それなのにこんな仕事に就くことになっちゃったそうだから人生ってままならないわよね。」 マ「そうなんですか。お二人とも詳しいですね。」 山「お昼に白崎さんから聞いたんですよ。いろいろあるかもしれないけれどあまり気にしないでやってくれと。」 梅「まあ四六時中行動を共にするんじゃないしやる事やってくれればいいんじゃない?」 やる事をやり切れていない気もするけど・・・。 まあ当人が一番大変そうだしそこは気にしないでおこう。 結局そのまま引き上げることになった。 旅館側に事情を説明し、今日中に食べるとの約束で残った料理を詰めてもらった。 梅「旅館の人と確認をする事がちょっとあるみたいなの。皆さんはお先に帰っててください。」 の「でもなんか申し訳ないですし私達も残りますよ。」 山「平気よ。私も残るし二人もいれば大丈夫だから。」 梅「子供は早くお休みなさい。」 山「青木さんもお疲れみたいですし気にせず戻ってくださいな。」 マ「じゃあお言葉に甘えさせていただきます。」 桜花さんと山田さんを残して全員引き上げることになった。 マ「ただいまー。」 蒼「お帰りなさい!」 翠「おっ、裏切り者が来やがったですよ。」 部屋には薔薇乙女が勢揃いしていた。 マ「なんで皆ここに?」 雛「くんくん見てたの。」 金「ここなら美味しいお茶が飲めるって聞いたかしら。」 真「紅茶がないのは我慢してあげるわ。」 口々にそんな事を言ってきた。 み「あら皆いるじゃない。ちょうどいいわね。」 の「おじゃましまーす。」 ジ「お邪魔します。」 蒼「皆してどうしたの?」 マ「料理を詰めてもらったからね。ささやかだけど皆で宴会でもやりたいなってね。」 真「あら、宴会を。」 雛「うれしいのー!」 翠「お前にしては気が利きましたね。褒めてやるです。」 金「これでひもじい思いをしなくてすむかしらー!!」 マ「でも持ってきた分で足りるかな?」 金糸雀の発言に少し不安を覚える。 み「じゃあ飲み物と一緒に食料も買い出してきましょう。」 マ「そうですね。その辺にお店もありそうですし。」 み「離れの方に自販機コーナーがあったわよ。」 マ「じゃあ荷物持ちはしますよ。」 金「カナも行くかしら。」 翠「行っても抱っこされてるだけですからただのお邪魔ですよ。」 マ「まあまあ、買ったとしても片手で持てるくらいだろうから平気だよ。」 蒼「じゃ、じゃあさ、僕も着いていこうかな。」 マ「おっ、嬉しいこと言ってくれるねえ。ぜひお願いしちゃおうかな。」 の「じゃあ私達は部屋で支度してますから買出しをお願いします。」 金「♪」 み「あらカナったらゴキゲンね。」 金「宴会が楽しみかしら♪」 マ「♪」 蒼「ふふふ、マスターもご機嫌だね。」 マ「蒼星石をこうして抱っこできてるからね。」 蒼「い、いきなり何を言うのさ。」 み「あらあら本当に仲良しさんね。」 そんなこんなで離れに向かっていると入り口の辺りに人影が見えた。 み「あれは・・・山田さんかしらね。」 マ「そうみたいですね。あんなところで何してるんでしょうね?」 どうやら一通り済ませて帰ってきたようだ。 傍には桜花さんらしき姿もあった。 マ「あのお疲れさ・・・」 声をかけようとしたところであるものに気付いて絶句する。 とっさに蒼星石の目を手で隠したが、腕の中で動揺する気配が間違いなく伝わってくる。 今となっては蒼星石を連れてきた事を猛烈に後悔していた。 連れてこなければこんなものを見せずにすんだのに。 目の前のものは腹を裂かれ中身をブチ撒けられた上に四肢まで切り刻まれ、既に人間の姿を失っていた。 続きへ
https://w.atwiki.jp/baragakuen-highschool/pages/58.html
https://w.atwiki.jp/ao-ohanashi/pages/626.html
『おばあちゃん』← マ「ここがおばあちゃんの夢の中か・・・。」 蒼「なんだか和風の空間に仕上がってるね。」 周りは畳やふすま、木製の柱や梁といった和室のパーツのようなものが集合して構成されている。 マ「どことなくだけど見覚えがあるような・・・。きっと昔おばあちゃんが住んでいた家の再現なんだろうな。」 マスターがどことなく懐かしそうな顔になる。 蒼「あ、あそこ!おばあさんがいたよ。」 マ「本当だ。あと他にも・・・。」 蒼「男の人、だね。」 マ「多分あれはおじいちゃんだ。二人とも若いけど面影があるよ。」 蒼「夢の中だからね、あれはおばあさんの思い出なんだろうね。」 場面が変わる。 蒼「子供たちだね。」 マ「あれは多分お母さんとおじさんだろうな・・・。」 蒼「近くで見てみよっか?」 二人でおばあさんの方へと寄っていく。 マ「おばあちゃん、こっちにはまるで気がつかないみたいだね。」 蒼「多分、今のおばあさんの心が自分の夢に閉じこもってしまっている状態だからだと思うよ。」 マ「おじさんの方は良く分からないけど・・・多分あっちがお母さんなのは間違いないだろうな。」 再び場面が変わった。 蒼「あ、あれはお孫さんみたいだね。あっちの男の子がマスターかな?無邪気そうで可愛いね。」 マ「・・・子供なんてのは大抵みんな無邪気なものだからね。 無邪気で・・・それゆえに自分のしている事がいかに汚く残酷であるかに気づかない・・・。」 マスターが苦虫を噛み潰したような表情で言った。 蒼「え?」 マスターは子供好きだったはずなので少し意外だった。 さらに変化が起きて、少し成長したマスターとマスターの妹さんと思しき女の子が登場する。 マ「あれは・・・遊びに行った時にプレゼントを貰っているところかな・・・。 しょっちゅういろいろな物をくれてさ、ゲームなんかもせがんで買ってもらったりしたものだよ。」 蒼「ふうん、大切にされていたんだね。うらやましいな。」 マ「だけど・・・僕の方はおばあちゃんとおじいちゃんを大事にはできなかったんだ。」 次第に暗くなってきたマスターの表情に不安を覚える。 蒼「・・・また、変わるみたいだね。」 今度はおじいさんとおばあさん、それにさらに成長したマスターと思しき男の子。 一緒に談笑しながら楽しそうに食事をしている。 マ「こうやって・・・よく食事に連れて行ってもらったりもしたんだ。 両親が共働きだったんだけどさ、それで通学や塾へ送ってもらったりする関係でお邪魔する事も多かったからね・・・。」 食事が済んだらマスターがおじいさんの肩をもんだりと、とっても仲が良さそうだ。 蒼「なあんだ、マスターってばしっかりと孝行をしてるみたいじゃない。」 マ「違うんだ・・・あれは違うんだ。あんな事だけで、恩を返せているつもりになって・・・。」 蒼「え、だけどおじいさんもすごく喜んで・・・。」 そこでふと気が付く。そういえば、マスターのおじいさんは一体・・・。 今まで話題に上らなかったが、すでにどこかの施設で生活しているのか? いや、だったら多分おばあさんも一緒に・・・それじゃあ・・・。 マ「おじいちゃんは・・・もう死んでしまった・・・。僕が・・・殺したようなもんだ・・・。」 マスターが突然両手で頭を押さえて膝から崩れ落ちた。 マ「僕のせいだ!!僕が、僕が気づかずにおじいちゃんを殺したんだ!」 蒼「マ、マスター・・・急にどうしちゃったの?」 マ「僕がああやって負担をかけ続けたからだ・・・だから、おじいちゃんも・・・僕が・・・。」 蒼「落ち着いて、言ってる事が分からないよ!!」 マ「ずっと、ずっと、さっきみたいにいろいろしてもらって、それを当然と思って自分からもねだって・・・ そのせいで二人は手に負えない借金をして、おじいちゃんはくたびれて倒れてしまった・・・。 残されたおばあちゃんも・・・親戚から厄介者扱いされて・・・居場所を無くしてしまったんだ・・・。」 蒼「そんな馬鹿な!いくらなんでもマスターのことだけでそんな事態にはならないよ。 きっと他にも事情があったんだってば。」 マ「違う!僕が気づかずにあんな事をし続けていたからだ・・・。他に理由があったにせよ、自分も加担していたんだ!」 この時になってようやく僕は気づいた。あの時のマスターの発言・・・。 逃げる事なく現実と向かい合う、それがおばあさんの夢に入る際のマスター自身の覚悟だったという事に。 蒼「マスター・・・しっかりして!」 マスターを抱き寄せる。しかし胸の中のマスターは一向に泣きやむ気配を見せない。 こんなにマスターが小さく、頼りなげに見えたのは初めてだ。 さっきからずっと、まるで子供みたいに泣きじゃくっている。 マ「ごめんなさい!ごめんなさい・・・!うっ、う・・・。」 蒼「マスター、落ち着いてよ!しっかり・・・して!!」 マスターは先程からうわごとのように誰かに謝り続けている。 契約によって僕の心と一つにつながったマスターの心の苦しみがひしひしと伝わってくる。 僕の心まで押し潰されてしまいそうな、深い絶望と悲しみが。 ・・・僕のせいだ、僕がマスターの心の傷跡をほじくり返してしまったからだ。 僕が、自分の能力に溺れてマスターの心を結果的に攻撃してしまったからなんだ・・・。 僕が自分のことばかり考えて、事情もよく知らないくせに出しゃばって・・・。 結局僕がしようとしていた事は、おばあさんを再び以前のような苦境に追い込む事であり、 そして・・・マスターの心を追い詰めてしまう事だったんだ。 蒼「ごめんねマスター、僕のせいでこんな事に・・・。」 それでも僕の声など届かぬようにマスターの懺悔は終わらない。 どうしていいか分からないままに立ち尽くしていると、誰かがそばに来る気配がした。 ば「カズキさん、そんなに泣いてどうしたのかしら?」 マ「おばあ・・・ちゃん?」 蒼「え、でも・・・なんで僕らに気づいて・・・。」 ば「そんな風に大声で泣いていたら誰だって気づきますよ。」 おばあさんが僕の方ににこりと笑って言った。 そういえばおばあさんは元々マスターの事ははっきりと分かっていた。 ひょっとしたらだけどそのためなのかもしれない。 ば「カズキさん、私は良いおばあちゃんじゃなかったかもしれないけれど、あなたは良い孫でしたよ。 だからそんなに泣かないでちょうだい。」 マ「そんなことない。おじいちゃんとおばあちゃんは良くしてくれたのに、僕が・・・!」 ば「あなたは本当に優しい子ね。でももういいの、私のことで悩まないで。 ・・・私がああいった方法以外で愛情を示す術を心得ていればあなたをそんなに苦しめずに済んだのにね。」 マ「それは自業自得なんだ。恩を仇で返して二人にあんな苦労をかけたんだから。」 ば「私の方こそ・・・随分と苦労をかけたわね。あんな風に身をすり減らしながらお世話をしてもらって。 起きている時には伝えられないけれど、今まで本当にありがたかったわ。・・・でもね、もういいのよ。」 マ「でも・・・このままだとおばあちゃんは・・・。」 ば「ありがとう。その気持ちは本当にうれしいわ。 だけど・・・今のあなたには私よりもそばにいてあげるべき、もっと大切な人がいるのでしょう?」 マ「そうしたらおばあちゃんは本当に一人ぼっちになっちゃう!」 ば「いいのよ、離れた所にいても、忘れないでいてくれて、そして・・・笑顔でいてくれるのならさびしくはないわ。 無理してまでそばにいてくれなくたっていいの、そんなに泣いているのを見たらこっちまで辛くなっちゃうから。」 マ「おばあちゃん、ごめん、ごめんなさい!」 マスターがおばあさんにすがりつく。 ば「あらあら、言ってるそばから困ったわね。いいかしら、そういう時はね、謝らなくてもいいの。 にっこりと笑ってお礼を言ってくれれば。大事な人が笑ってくれるのが一番うれしいんだから。」 マ「・・・あ・・・ありがとう、おばあちゃん・・・。あはは、やっぱり涙は止められないや。ごめんね。」 ば「いままで本当にありがとう、また気が向いたらお顔を見せてね。」 マ「うん、分かった。そうするから元気で待っててね。」 その後、おばあさんはご実家近くの施設に預けられる事になった。 受け入れの準備が整うまでということで引き続きおばあさんのお世話をしていたが、ついに今日連れられていった。 蒼「ほんの数日だったのに、なんだか急にさびしくなっちゃったね。」 おばあさんの寝ていた布団が片付けられ、なんだか部屋ががらんとしてしまった気がする。 マ「そうだね、結局おばあちゃんには何かしてもらいっ放しだったな。」 マスターの表情は未だ晴れない。やはりまだ尾を引いているのだろうか。 蒼「マスター、ごめんね。僕が余計な事をしちゃったから・・・。」 マ「蒼星石そんな暗い顔して謝らないでよ。 おばあちゃんは言ってた、『大事な人に泣いて謝るくらいなら笑ってお礼を言え』って! だから・・・蒼星石ももっと笑って、笑ってよ・・・!!」 蒼「・・・でもさ、そう言っているマスターの方がもう泣きそうじゃない。」 僕の言葉に、マスターがかすかに笑った気がした。 マ「ごめんね、僕は弱い人間だから、またすぐに泣いてしまうかもしれない。 ・・・だからそんな時は蒼星石にそばにいて力づけてもらいたいんだ。 だから・・・蒼星石には笑っていて欲しい、自分の弱い心を支えて欲しい。」 蒼「・・・分かった。マスターを支えられるように頑張るよ。」 マ「ありがとう。・・・ごめんね、蒼星石の負担をまた増やしてしまって。」 蒼「いいんだよ、僕らは離れるわけにはいかないんだから。 喜びも、悲しみも、共に経験していけばいいんだ。 だから僕はマスターのことをきっと支え続けるよ。 その代わり・・・マスターも僕のことをちょっとだけ支えてくれないかな?」 そこで少し間が空く。 マ「・・・ちょっとだけだなんてけち臭い事を言いなさんな。嫌だと言っても全部支えちゃうからね!」 マスターの大きな手が僕の頭をやさしく撫でる。 そう言ってくれたマスターの顔には以前のまぶしい笑顔が戻っていた。
https://w.atwiki.jp/ao-ohanashi/pages/784.html
2007年4月21日(土)18 32 ……えっと、どうしてここに居るんだっけ。それに、どうして僕は泣いてるんだっけ。 夕暮れの街の中を僕はさまよい歩いていた。部活帰りの中学生とすれ違い、帰宅途中の サラリーマンが通り過ぎ、何台もの自動車が走り去っていった。それぞれ、何かの目的を 持って動いている世界の中で僕はただ一人取り残されていた。立ち止まるとそのまま動け なくなってしまいそうで、僕は少しずつどこへとも分からず歩いていた。 逃げ出したくなったのは何でだっけ? すると見たくもなかった回想が僕の頭によみが える。マスターの過去。卒業アルバム。寄せ書きのページ。そこに挟まった写真。写真。 写真。写真―― 「うぁっ……ひっ……」 堪えきれなくなって僕はついにうずくまってしまった。あの映像が――この眼に映った あの写真が、どうしたって離れないんだ。楽しそうに、それこそ僕が見た事ないような顔 で笑うマスターと、女の人の写真。マスターは、昔の彼女だと言っていた。けれども―― 僕はあんなふうに、マスターを心の底から笑わせられるような女性ではなかった。それな のに―― マスターが本当に今でも愛しているのはあの人なんだ。それなのに、僕はマスターに愛 を強制した。勝手に思い上がって、勝手に愛して欲しいだなんて――そんな事、思っては いけなかったんだ。そんな事を思い上がってしまった僕は今、マスターの前から消えるべ き存在なんだ。 ふと空を見上げると、空は夕暮れの赤から夜の青へと変わり始めていた。二色の混じっ た紫の空が地面にうずくまった僕を見下ろしていた。行く当てもなくどうすればよいのだ ろうと考えていた僕にとって、その紫は天啓に思えた。 ――ああ、あの空に身を投げたら、どんなに気持ちいいだろう。 僕は立ち上がった。そして歩き出した。この空の色が変わらぬうちに、あの空の元へ飛 び込もう。どこか見晴らしのいい場所を探そう。お別れに、マスターのところにメールを 一つ打つといい。余計な言葉は要らない、一言でいい。「さよなら、ありがとう」―― と、その瞬間僕は背後から鳴ったベルに驚いてすぐ傍の壁によけた。後ろから自転車で 来たのは部活帰りの高校生だった。慌ててよけた弾みで僕は壁に身体をぶつけた。ぶつけ た拍子にiPodが再生され、音楽が流れ出した。このイントロは確か――ART-SCHOOLの 「SWAN SONG」だった。 イントロが流れ出し、ドラムの音がはじけ出し、それからギターが入る。透明感ある前 奏。やがてボーカルが歌い出す。『腐り切った感情で僕は今日も生きている』……腐り切 った感情。それは僕の本心そのものだった。僕は今日もそんな感情を抱いて生きていた。 この先の流れも僕は全部知っていた。だからこそ聞くのが怖かった。けれども僕は音楽 を止められなかった。――それが僕のすがりつける唯一のものだったから。そしてボーカ ルはこう歌う。『どうでもいい、でも一度心の底から笑ってみたいんです』 ああ……僕の脳裏にマスターの笑顔が、そして少し前までの僕の笑顔がよみがえる。誰 かにも、「今まで貴方はそんな風に笑った事がなかった」と言われたっけ。――もう一度、 もう一度だけ、僕は心の底から笑ってみたいんです――神様。 やがて歌は佳境に入る。いつしか僕は歌を口ずさんでいた。『苦しくて逃げ出して心な らとっくに焼け落ちた』……喉元が熱くなる。胸の奥が、刺さるように溶け出すように響 く。『はいつくばって、みっともないな』――僕はマスターの事で精一杯で、マスターに 踊らされていた。みっともなかった、けれども――『でも今日はそんな風に思うんです。』 いつしか僕はまた涙を流していた。視界を潤ませ、喉をしゃくりあげ、心を溶かしてい った。この涙は最初に流れた贖罪の涙とは違う、これは浄化の涙だった。錆びて汚れて壊 れ果てた心を洗い流す、浄化の涙だった。 『機械のように呼吸をする』――それはマスターと出会う前の僕の生き方だった。与え られた作業を忠実にこなし、必要最低限の報酬だけ貰って、感情を持たずに生きる。それ が今、僕はこんなにも欲張りになってしまった。生きる事が目的で、それ以外はどうでも よかった、けれども――『でも一度死ぬほど誰かに焦がれてみたいんです』……僕にとっ て、それがマスターだった。初めて見つけた大切なもの――それを必死で求めて、独占欲 と共に僕はもがき続けた。『腐り切った感情でもがく度に堕ちていく』 真実を言い当てられ、何も言い返せず、苦しいはずなのにこの歌は何故か救いに思えた。 水槽のように透明感溢れるサウンドの中へ僕の苦しみ、痛み、汚さ、憎しみ――様々な感 情が溶け出していくように思えた。そしてこの歌はその感情を全て受け止めてくれるよう にも思えた。そして曲の終わり、ボーカルはこう繰り返した。『笑っていたいんだ』笑っ ていたいんだ、と。 音楽が終わった。その途端腕の感触が僕を包み込んだ。急に抱きしめられた僕はバラン スを崩してそのまま倒れこんだ。「蒼星石! 蒼星石っ、そうせいせきぃ……」うめくよ うに、ささやくように何度も僕の名を繰り返す。この包み込むような、優しい声。熱い腕 の感触。腕に走る血管に涙で濡れた目を向けながら、僕は声の主に振り返った。……優し いあの人の、苦しげな顔があった。 「ごめんな……あんな写真を見せて、俺が悪かったんだ、ごめん……」 「そ、そんな違うって! 僕が、僕が勝手に逃げ出したんだ。それに……」それに、僕は もうじき居なくなる。……いなくなる? 本当に? 『笑っていたいんだ』……急にあの リフレインが頭の片隅によみがえる。 マスターは優しく僕のイヤホンを外すと、耳元にキスをした。そしてそのままささやく。 「お前が必要なんだ、だからもう居なくならないでくれ」 僕は困惑する。「僕はいらない存在なんだってば……マスターだって、あの女の人が、 今でも離れないんでしょ? だからマスターは僕なんかじゃなくて、あの人と早く幸せに なって。僕は居なくなるから――」 「あいつは死んだんだよ」 マスターは言った。 「え、どういう――」「あいつは昔、自殺したんだ。もうこの世には居ないんだ」それじ ゃあ僕は――「同じ過ちを繰り返したくないってのもある。でも今の俺はそれだけじゃな いんだ」それだけじゃない、ってどういう事なんだろう? 「ごめんな、今まで、本当の事が言えなくて。……怖かったんだ。お前をあいつの代わり にしてるように思えて、代用品として利用してるかのようで、申し訳なくて」「……利用 でも、いいんだよ。使って、使い尽くして、使い終わったら今みたいにポイって捨ててい いんだよ、僕はそれでも――」「駄目なんだよ!」マスターが急に怒鳴った。 「駄目なんだよ! それじゃあ――それじゃあ前と同じじゃねえか! 俺はもう誰も死な せたくないんだ! 俺の周りで誰一人として死なせたくないんだ! まして蒼星石を失っ たら……生きていけないんだよ、俺は」そう言ってマスターは僕の方を見た。「俺は、お 前じゃなきゃ駄目なんだ。過去でも未来でもなく、今の蒼星石じゃなきゃ駄目なんだ」 マスター……僕は思わず彼の胸にすがりついた。マスターは僕を強く抱きしめ、僕の頭 を起こして、くちづけをした。永久に続くかのようなキスだった。その間ずっと、何かを 確かめ合うかのようにお互いの感触を感じ合った。このまま、この人に溶かされていい― ―この人の為に生きよう、僕は生きよう、そう強く思った。誓いのキスだった。 空はもうすっかり暗くなっていて、三日月が斜めに浮かんでいた。僕はマスターと手を 繋いで家へと歩いた。今までマスターも一人だったのかもしれない。僕だって一人だった。 けれども――今は二人で居られる。ここに、居られる。居ていいんだ、居て欲しいんだ― ―僕はあのキスの中でそれを実感した。 「今日はこのまま、晩御飯買って帰ろっか?」 ――そう言って笑ったあなたの笑顔を、僕は絶対忘れない。だって、その笑顔は、余り にも自然で。あの写真がかすむ程に自然な笑顔で。つられて僕も笑った。――ああ、僕も 笑えるんだ。笑っていいんだ。だったら僕も…… ――笑っていたいんだ。これからもずっと。 (終劇) マスターのメモ SWAN SONG /ART-SCHOOL 4th MiniAlbum 「SWAN SONG」(Disc1,Disc2)収録。
https://w.atwiki.jp/ao-ohanashi/pages/736.html
←前回へ 桜花さんは言葉に詰まってしまっている。 マ「桜花さん、もう観念してください。それなりに考えた嘘が破れたんです。即興で取り繕ってもボロが出るだけですよ。」 黒「じゃ、じゃあこの件はもう終わりという事で・・・」 マ「いいえ、違います。」 山「そうよ、あなたの疑惑だってまだ晴れていないんだから!」 黒「わ、私がそんな事をして何の得が・・・」 マ「昨日自分が襲われたのが桜花さんの狂言だという可能性に気付いて、桜花さんの人形を調べさせていただきました。 草笛さんの連れのジュンちゃんが直したのをお借りしてね。そうしたら、変なところがあったんです。」 黒「!!」 み「変なところ?」 マ「ズタズタに切り裂かれた体のうち、腹部には元々スペースがあったそうなんです。ちょうど何か収納できそうな。」 ジ「ボロボロになっていたんですが、そこだけよく見ると切られたの以外に袋状の作りが初めからあったんです。」 山「でも、それがどうかしたんですか?」 マ「なんで人形を襲ったのか、それもわざわざ旅先で・・・その答えなんだと思います。」 み「と、言うと?」 マ「何かまでは分かりませんが、何かの受け渡しをするつもりだったんじゃないでしょうか?」 の「受け渡し?」 み「人形に入る何かをやり取りしてたって訳ですか?」 マ「多分。ところが渡す側、桜花さんの方は渡せなくなったか渡したくなくなったんでしょう。 だからエリザベスをああいった形で皆の目にさらし、渡すものが無くなったと受け取り側に伝えたんです。 その上でストーカーをでっち上げてその仕業のように見せようとしたんだと思います。」 桜花さんは否定も肯定もせずただ黙って聞いている。 マ「ただ、受け取る側ははいそうですかと言うわけにもいかない。 だから人形を刻んでしらみつぶしに可能性を当たり始めたんです。」 山「じゃあキャサリンは・・・。」 マ「たぶん中に何か入ってないかを調べるためにお腹を裂かれてしまったんです。 候補になるのは一人で参加した桜花さん、山田さん、そして私のお人形。だから蒼星石を囮に出来たわけです。」 み「なぜ一人で参加した人に限られるんですか?」 マ「今回の旅行、いろいろと妙ですよね。やけに参加者の素性がはっきりしなかったり、破格だったり。」 山「そういえばそうですね。」 マ「それは今回の発案者、そして幹事がその受け渡し側だったからです。 相談の際のログでも見れば分かることですが、三人組の草笛さん一行はここで除外です。 おそらくは取引の条件の一部に、旅行においてさっき言ったような便宜を図らう事が入っていたんでしょうね。」 山「ちょっと待ってください!それじゃあ受取りの相手は・・・」 マ「ええ、受け取るはずだった人間は旅行を運営する側の人間、つまり黒崎さんです。 だからこそ、キャサリンも蒼星石も狙わなくてはいけなくなったんでしょう。 なんてったって既にいろいろと骨を折って負担しているんでしょうからね。」 み「一体なんの目的でそんなお人形を使ったやり取りを?」 マ「さあ?それは私には分かりません。 営利かもしれなければ、何か実験的なものかもしれないし、ただのお遊びかもしれない。 ですが、恐らく違法なものではあるんでしょうね。・・・詳しくは当人に聞くしかありません。」 そこで黒崎さんと桜花さんをかわるがわる見る。 マ「・・・いかがでしょうか?」 黒崎さんも桜花さんも何も語ろうとはしなかった。 続きへ
https://w.atwiki.jp/ao-ohanashi/pages/884.html
マスター?どうしたの? -- 蒼星石 (2007-07-14 01 00 58) 見ーてーるーだーけー -- マスター(仮) (2007-07-14 02 58 39) シャンプーの詰め替え用パック置いとくね。あと・・・その・・・綺麗だよ・・・ -- 名無しさん (2007-07-14 02 59 47) な、何でもないよ!何でもないよ!…ハァハァ -- 名無しさん (2007-07-14 09 28 03) とりあえず抱きしめる -- 名無しさん (2007-07-14 14 46 09) い、いっしょに入って良ぃ/// -- 名無しさん (2007-07-14 16 17 16) いや・・・そ、その、大きくなったなぁと思ってな/// -- ローゼン (2007-07-14 17 32 48) よーし、一緒に入ろうか^^ -- 名無しさん (2007-07-15 04 16 13) やっ・・・・やばい・・・ -- 名無しさん (2007-07-15 12 00 29) 翠星石も入るですぅ -- 翠星石 (2007-07-18 20 48 25) 一緒に・・・は・い・ろ。そしたらうまいぼー・・・あ・げ・る。 -- ちゅちゅ (2007-07-19 13 08 16) ずるい(-0-) -- 名無しさん (2007-07-19 13 08 55) 俺がお前とあそこにも入ってあげよう。 -- 名無しさん (2007-07-19 15 07 27) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/ao-ohanashi/pages/803.html
連休初日、家でのんびりしていると翠星石たちが遊びに来た。 今日は雛苺や金糸雀、真紅までもが連れ立ってる。 マ「お茶入れたよ。おやつにしようか。」 みんなでおやつを食べて駄弁っているといきなり雛苺が言った。 雛「ねえねえ、金糸雀のお名前って漢字でどう書くの?」 金「黄金の『金』、お裁縫なんかの『糸』、鳥の『雀』かしら。」 翠「黄金ですか!なんだかゴールデンでゴージャスですね!!」 真「ゴールデンといえば、何かを思い出すわね。」 一同が揃って視線をこちらに向ける。 練習してきたようだがはっきり言ってさっきからとってもわざとらしい。 蒼「何か・・・求められてるみたいだよ?」 マ「あのさ、わざわざ小芝居しなくてもいいから、単刀直入にどうぞ。」 その言葉に一同が顔を合わせる。 そして代表して翠星石が口を開いた。 翠「せっかくのゴールデンウィークだからどっか連れてきやがれです!」 マ「なぜ僕が。」 真「せっかくの連休だから泊りがけで出かけたくもなるじゃない。」 マ「泊まりで、ねえ。」 蒼「僕らはそんなに休日って関係ないけどね。」 雛「出かけたいの、出かけたいのー!!」 金「こういうのは理屈じゃなくって雰囲気が大事なのかしら♪」 マ「で、他の人達は?」 金「みっちゃんは連休なのにお仕事だし、」 雛「トモエはガッシュクなの。」 真「ジュンものりもちょっと無理だそうなのよ。」 マ「で、皆さんを一人でお相手しろと。」 翠「大丈夫です!もうプランは考えてありますから。」 翠星石が胸を張って自信満々に宣言した。 マ「いつも当事者不在で勝手に話を進めるよね。」 蒼「それって大丈夫の根拠になってないよ。それに今から準備できるの?」 翠「まあ聞けです。」 金「聞いたらきっと行きたくなっちゃうかしらー!!」 雛「バッチリの計画なのー!」 マ「じゃあ聞かせてよ。」 翠「まず大きめのレンタカーを借ります。お前は運転できますよね?」 マ「うん。」 翠「そして山にドライブです。」 マ「ほう。」 蒼「そんな場所へ行って人目は?」 真「穴場があるそうよ。」 金「この時期じゃまだ寒くて誰も行かないと評判のところがあったかしら♪」 マ「そんなところに行きたいの?」 翠「で、後はキャンプしてサバイバルです。」 マ「サバイバル?」 雛「大自然とふれ合うのよ。」 真「おやつや遊び道具も現地調達するから荷物も少なくて済むわ。」 蒼「それが・・・プラン?」 はっきり言ってずさんで行き当たりばったりとしか思えない。 それならいっそマスターに任せてミステリーツアーにした方が遥かに良いのではないだろうか。 まあ・・・マスターがその気になってくれればだが。 マ「なるほどそいつは楽しそうだ。」 蒼「えぇっ!?」 何やら意外な方向で乗り気になっているようだ。 マ「たまには文明の利器のありがたさを知るのもいいかも。」 翠「ですよねー?」 金「じゃあ連れてってくれるのかしらー?」 マ「だがノン!」 雛「えー、ひどいのー!ケチケチしないでなの!!」 マ「ケチではなく、先約が入ってるんだ。」 真「だったら仕方ないけれど、それを先に言いなさいよ。」 翠「無駄に期待させんじゃねえです!」 マ「内容次第ではなんとかなるかとも思ったんだけどね。 まあ無理っぽいからそのプランはまたの機会にでもね。」 翠「ま、まさか蒼星石と二人っきりでどこかに行ってアバンチュールを・・・」 蒼「・・・そうなの?」 マ「だったらいいがそれも違う。人と会うんだよ。」 真「まあ無理なら長居は無用ね。」 金「連休中はみんなで集まって遊んでましょ。」 雛「桃鉄全シリーズ99年制覇しちゃるのー!!」 翠「蒼星石も暇な時に来てくださいね。」 蒼「99年・・・気が向いたらね。」 マ「じゃあまたね。」 マ「ゴールデンウィークと言っても結構みんな忙しいみたいだね。」 要求が通らないと分かった途端に薄情にもみんな帰ってしまった。 静かになって落ち着いたところで改めてマスターと一服する。 蒼「はいお茶。それで・・・連休中の予定だけど・・・」 マ「うん?」 蒼「その・・・二人でどこかに行くとか・・・」 マ「どこにも行けないけど・・・んー、蒼星石はどこか出かけたかった?」 蒼「え、違うよ!?マスターの予定を確認したいだけだよ、あはは・・・。」 ついつい未練がましい言い方になってしまっていたのだろうか。 だけど返答を聞いてちょっとがっかりしたのも事実だ。 マ「明日の4日にさ、連休のど真ん中なのに両親が観光がてら様子を見に来るんだってさ。」 蒼「マスターのご両親が?」 マ「そ。まあ様子見がてら観光かもね、寂しい一人暮らしと思われてるし。」 蒼「あ・・・そっか。」 マ「もちろん実際はちっとも寂しくなんかないけどさ。」 マスターが僕の頭を撫でる。 マ「まあ来てくれること自体はありがたいんだけどね。ただ・・・」 マスターの表情がわずかに曇る。 蒼「どうしたの?仲でも悪いの?」 マ「いや、違うよ。たださ、顔を合わせるといろいろ口うるさく言われてね。」 蒼「それは仕方ないよ。マスターの事が大切だからこそ心配なんだよ。」 マ「そうなのかもね。妹も一人居るけど、みんな仲良くやってけてると思う。 その事自体はとてもありがたいと思ってる。」 蒼「ふうん、そうなんだ。どんな人達なんだろう。」 マスターを育てたご両親、マスターに面倒を見てもらったり、時にはケンカしたりしたであろう妹さん。 僕以上に長い時間をマスターと共に過ごしたのがどんな人達なのか気になった。 マ「それなりに不自由なく『普通』に育ててくれたし、尊敬してるよ。 会ってみる?素敵な子だと紹介させてもらうけど?」 蒼「それはちょっと・・・僕らの存在がいたずらに知られるのは良くないと思うし。」 マ「だよね。仕方が無いけど。その間はどこかに行ってもらってた方がお互い安心かな。」 蒼「分かった。明日はどこかに出かけておくよ。」 マ「お願いするよ。日帰りらしいから夜には戻ってきてくれればいいから。 もちろんどこかに外泊してくれても構わないけどさ。」 蒼「ううん、帰ってくるよ。せっかくの連休だしマスターと一緒に過ごしたいからね。」 マ「ごめんね、連休なのに分断されちゃうから何もしてあげられなそうだ。」 蒼「別にいいんだよ。一緒に居てくれるだけで僕は幸せだよ。」 一緒にどこかへ出かけたい気持ちもちょっぴりあったのは確かだが、この言葉は僕の本音だ。 マ「ありがとう・・・。」 マスターが今度は僕を抱き締めてくれた。 さて、そんな訳で日中は主におじいさんのお宅で過ごした。 なんだかんだでだいぶ遅い時間になってしまった。 帰り際、おじいさん達は明日は子供の日だからマスターとまたおいでと言ってくれた。 それにしても、翠星石のところにも顔を出してはみたが・・・あれは凄かった。 昨日の宣言どおりにゲームをやっていたが、もう形勢が固まっていて作業のようだった。 しかもぶっ続けでやってくたびれたところに足の引っ張り合い、もめ合い・・・阿鼻叫喚である。 もう少しで99年終わりそうだから見ていたが、思いの外に時間を取られてしまった。 次のゲームに移る際、翠星石に参加しないかと言われたがとてもそんな気にはなれなかった。 もしも参加していたらこの時間にもまだ帰れなかっただろう。 何はともあれ今はマスターに会いたい。 蒼「あれ?」 何やら居間の方から話し声が聞こえた。 様子を窺うと複数の人の気配がする。 どうやら電話ではなさそうだ。 開いた戸の傍で聞き耳を立てて状況を確認する。 父「悪いな、急に泊めてもらっちゃって。」 マ「まあいいさ。せっかく久し振りに会えたんだし。」 母「そうよね、滅多にできない団欒だもんね。」 マ「まあ一人だけ居ないけどね。」 父「あいつは友達と二泊三日の旅行に行っちゃったからな。」 マ「薄情だなあ。前は帰省のタイミングを合わせたりしてくれたのに。」 父「いやいや、若いうちはそうやってみんなで遊んだ方がいいんだ。 むしろお前だってそういった事をやらなきゃ駄目だぞ。」 マ「連休のど真ん中にやって来られたら泊りがけで出かけるなんて無理じゃん。」 父「お前が寂しい思いをしないように来てやったんじゃないか。」 マ「その言い草はないよ。わざわざこっちに出てくるって言うから予定もキャンセルしたのに。」 父「ほう、どんな予定だったんだ?」 母「旅行?」 マ「えーと、まあね。」 マスターが言うんじゃなかったと思った時の顔になる。 母「誰と?」 父「友達か?」 マ「うーん・・・ちょっと違うかな。・・・女の子。」 父「二人でか!?」 マ「一応ね。」 母「キャンセルしたって事は泊りがけよね。」 マ「さっきも言ったじゃない。」 憮然とした感じのマスターの声。 あんな事を言ってたけど僕とどこかに行くつもりだったのだろうか? ちょっと気になって戸から身を乗り出して中を覗く。 マスターの姿は見えるがご両親の姿はちょうど死角で見えない。 少し残念だがこれなら見つかったとしてもマスターにだけで済むだろう。 そのまま室内に目を向ける。 マスターはまだこちらに気付いていない。 母「で、どんな子なの?」 マ「えーとね・・・。」 マスターはお酒が入ってる事もあってか真っ赤な顔だ。 そして傍らにあったコードを指でくるくると巻いてもてあそんでいる。 父「最近は変な女も多いから気をつけるんだぞ。」 マ「違うよ!可愛い上に家庭的でとっても気は利くし、謙虚で知性的な子だよ。」 マスターの照れながらの指遊びがいっそう激しくなった。 ご両親の前だからかなんだか子供っぽくて、それが僕には可愛く見えた、 父「そりゃ凄いな。」 母「本当にそんな子が居るものなのね。」 ご両親の半信半疑の声。 かく言う自分も・・・果たして自分の事なのか自信が無くなってきた。 父「でもそんな立派な子だとライバルも多くて大変だろ。」 マ「うーん、かもね。だけど今は多分お互いに一番長い時間を一緒に過ごせてると思う。」 多分、僕の事・・・だろう。 父「ほう。そのまま逃がすんじゃないぞ。」 マ「そうしたいね、心の支えになってくれる子だし。 だけど家庭の事情がなあ・・・。」 母「何があるの?」 マ「うーん、その子の姉妹とか・・・あと父親がね。」 これは・・・僕だな、さすがに。 母「ファザコン?」 父「じゃあ俺も脈アリか!」 マ「ありえないが万一の時は実力行使に訴えてでも止める! ・・・まあでもそれに近いかもね。 自分よりも父親の方を選ばれてしまうかもしれない。」 母「頑張ってね、ううっ・・・。」 マ「どうしたの?」 母「ああ・・・この子がこんな風に女の子の事を話すなんて初めてだから・・・。」 マ「いやまあ、そんなに話すような話題でもないし。」 父「確かに。これで二人とも安心できる。いいか、なんとしてもその子を射止めろよ。」 母「明日は帰ったらお赤飯炊いてお祝いしなきゃ!」 父「ご先祖様や親戚にも報告しなきゃだな!」 マ「馬鹿なこと言わないでよ。おつまみに何か作ってくるから待ってて!」 大袈裟に盛り上がるご両親との話を打ち切ってマスターが立ち上がった。 先に台所の方へと移動しておく事にした。 マスターが有り合わせの物でおつまみを用意している。 蒼「・・・マスター・・・。」 マ「・・・ん?ああ、蒼星石帰ってたんだね。」 蒼「うん、さっきね。」 マ「ごめんね、親が急に泊まるって言い出して。伝える暇もなかった。」 蒼「いいんだよ、そんなの。」 マ「あ、でも鞄だけは鏡の脇のところに運べたからさ、どこか適当な場所を探して蒼星石は寝てて。」 蒼「分かった。」 マ「本当に申し訳ない。」 蒼「ねえ一つ聞いていいかな?」 マ「何?」 蒼「マスターってさ、とっても素敵な女性とお知り合いだったんだね。」 マ「ぶっ!!」 蒼「僕はそんな事ちっとも知らなかったよ。」 マ「さっきの話・・・聞いてたの?」 蒼「たまたまね。で、誰なのかな?」 マ「うー・・・。」 蒼「そんな人が居たら僕もお役御免になっちゃうね。」 マ「意地悪だなぁ、蒼星石に決まってるじゃないか!」 紅潮した顔で確かにそう言った。 蒼「ごめんなさい、でもマスターの口から確認しないと不安で・・・。」 マ「不安なのはこっちだよ。いつ見放されちゃうかも分からないんだから。」 ぶつくさ言いながら料理を再開する。 蒼「ねえ、マスター。」 マ「ん、なんだい?」 蒼「僕は・・・今はマスターの方がお父様よりもずっとずっと大事だよ。」 それを聞いたマスターがぽかんとしている。 マ「どういう・・・こと?本当にそれで・・・いいの?」 蒼「ふふ・・・お父様を裏切る事になっちゃうのかな? でもいいんだ、僕はマスターと共に在りたい。」 マスターが黙ったまま固まってしまう。 蒼「あ、はは・・・突然変な事を言っちゃってごめんね。」 マ「いや・・・」 マスターの目から大粒の涙がこぼれた。 蒼「ど、どうしたの!?」 マ「ありがとう・・・嬉しいよ。」 マスターが目頭の辺りを押さえている。 蒼「ちょっと、落ち着いてよ。ご両親が心配しちゃうよ。」 マ「あはは、そうだね。玉葱でも刻んでごまかそうかな。」 蒼「もう、マスターったら。そんな程度じゃすぐばれちゃうよ。」 マ「違いない。」 二人で顔を見合わせて笑った。 その後マスターは料理を終えご両親のところに戻った。 一方僕はというと・・・また居間の戸の陰にいた。 こんな時間になってよそに押しかけるわけにも行かない。 家で寝るのならもう少しマスターのご家族を様子を知っておいてもいいだろう。 正直に言えばどんな話をするのかに興味があるのだが。 マ「お待たせ。」 父「ほう、またいろいろ作ったな。」 マ「有り合わせだけどね。まあ料理は好きだから。」 マスターが楽しそうに言った。 父「でもそうやって気付いたら自分が作る役にされていたとか無いようにしろよ。」 マ「大丈夫だよ。」 父「いや、結婚すると女は変わるぞ。うちがそうだった。」 マ「はは・・・結婚ね。」 何やら勝手に話が進んでいる。 でも不思議と悪い気はしない。 父「何を言うんだ、大事な問題だろ。お前だってそろそろそう言った事を考えてだな・・・。」 マ「また・・・そんな話?」 何故だかマスターの機嫌がさっきから急に悪くなっているような気がした。 母「でも確かにそろそろ、ね。」 父「そうだそうだ、早く結婚して孫の顔を見せてくれよ。」 マ「!!」・蒼(!!) 父「もうお父さん達も若くないからな、孫の顔を見て隠居したいもんだ。」 マ「その辺と血筋を残すのはもう妹に任せたよ。」 父「そういうもんじゃないだろ。やっぱりお前だって子供を持って一人前の男としてだな・・・」 マ「でも・・・僕は・・・まだそういうのは考えられないな。縁があればあるいは、だけど。」 途切れ途切れになりながら何とか言葉をつなげる。 母「でもね、子供が生まれるってとても幸せよ?お母さんはあなた達に恵まれてとっても幸せなんだから。」 マ「う・・・ありがとう。」 父「そうだぞ、お父さんもお前達のおかげで幸せだ。」 マ「・・・まだ・・・自分には早いよ。・・・相手があっての事だしね。」 マスターが声を絞り出すようにしてそう言った。 母「でも相手はいるんでしょ?」 父「そうだぞ、お互いにその辺りの将来設計もしっかり考えてだな・・・。」 マ「お父さん達の言いたい事は分かるけど・・・相手の事情もあるからね。今は・・・ごめん。」 父「いつもそうだな。まあいいさ、相手が見つかったんならもうすぐだからな。」 母「楽しみね。」 父「今から相談して名前でも考えておくか。」 マ「楽しそうだね・・・まあもう一杯どうぞ。」 父「おおすまんな。お前も飲むか?」 マ「うん、貰うよ。」 マスターはお酒を注いで貰うとそれまでよりもハイペースで飲みだした。 子供・・・それは決して自分には能わぬ事だ・・・。 さっきのご両親の嬉しそうな声とマスターの悲痛な表情が脳裏にまとわりつく。 今日はもう寝る事にしたが、鞄に入っても気分がもやもやとして寝付けなかった。 どれ位の時が経ったのだろうか?何やら外が騒がしい。 マ「もう帰るの?朝ご飯くらい食べていきなよ。」 父「いや、道が混む前に帰りたいからな。」 母「それに昨日遅くまで暴飲暴食したから食欲が無いのよ。」 マ「そう。じゃあ仕方が無いね。気をつけて帰ってね。」 父「ああ、お前も元気でな。」 母「離れてても応援してるからいろいろ頑張ってね。」 マ「本当にいろいろ・・・ありがとう。」 父「じゃあな!」 母「体には気をつけてね。」 バタンと戸が閉じる。 しばらくして鞄から外に出る。 マ「あ、おはよう。今朝食の仕度してるからもう少し待っててね。」 蒼「僕も手伝うよ。」 マ「そう・・・ありがとう。」 何か言いたかったが、何を言っていいのか分からないままで二人並んで黙々と朝食の仕度をした。 マ「じゃあ食べようか。」 蒼「いただきます。」 マ「いただきます。」 やはり会話の無いままだ。 いつもなら天気の話とか他愛の無いことでも話題は尽きないのに。 蒼「あのさ・・・」 マ「なんだい?」 蒼「えーと・・・」 なんとなく黙っているのが辛くて話をしようとしたが後が続かない。 そうやって戸惑っているとマスターが言った。 マ「蒼星石、あの後の話を聞いたの?」 蒼「・・・うん。」 こくりとうなずく。 マ「そうか、やっぱりね。」 蒼「ごめんなさい。」 マ「別に気にしなくていいさ。たいした話でもないし。」 蒼「違うよ、その・・・僕じゃあ・・・マスターの子供は・・・」 マ「それも気にしなくていいんだよ。」 蒼「だけどマスターは子供を欲しくはないの?」 マ「・・・平気だよ。」 蒼「正直に答えてる?」 マスターはある意味僕の求める答えをしてくれたのにさらに追及する。 マ「ふぅ・・・こう答えればいいのかな?子供自体は欲しいよ。 子供好きで世話好きだと思うし、多分子煩悩の親馬鹿になるだろうね。」 マスターがうっすらと笑いながら言った。 蒼「やっぱり・・・そうだよね。」 それを聞いたマスターの笑顔が消える。 マ「でもね、僕だってもう子供じゃない。分かってるさ、あれもこれも欲しいってのがわがままだって事くらい。 自分で選んだんだよ。蒼星石と共に居られる事を優先しただけさ。子供よりも・・・両親よりもね。」 蒼「僕のせいで・・・。」 マスターが首を横に振る。 マ「違うよ、これは自分の意思だ。自分の責任で、僕“も”両親を“裏切る”事にしたんだ。」 その言葉を聞いて僕は気付いた。 昨日の自分の過ちに、自身の愚かさに。 そして・・・マスターの涙の意味に。 昨日の僕の軽はずみな発言のせいで、悩んでいたマスターを追い詰めてしまった。 自分はお父様との問題を先延ばしにしたに過ぎない。 数十年もしたら、また次の時代でやり直しが利くかもしれない。 だけどマスターは・・・ご両親が亡くなられたらもう取り返しはつかないのだ。 それがどれだけ後の事かは分からない。 しかしそれから後もずっと、マスターは一生自分を責め続けるのだろう。 僕の軽はずみな発言がマスターにその決心をさせてしまったのだ。 その後、二人とも一言も発さずに時は過ぎていった。 続き
https://w.atwiki.jp/ao-ohanashi/pages/417.html
べたつく潮風が頬を撫でる 「マスター!早く~」 向日葵みたいな輝かしい笑顔で下半身まで覆うダボダボTシャツ(俺のお古)姿の蒼が手招きしている キザッぽく鼻で笑いながらクールな振る舞いで砂浜を歩く 「蟹さんがいっぱいだよ、ほらほら」 無理矢理顔に蟹を押し付ける蒼。いたたた、はさんでるはさんでる 「なんかマスター元気ないね。どうかしたの?」 そんな事ない。むしろ幸せいっぱいなんです。だから… 「ぷあっ!」 蒼に向かって海水を浴びせてやった 「もぉ…やったなぁ!」 反撃にかかる蒼 フフフ…気づいてないがTシャツが透けて下着が丸見えだぜ 指摘すると、蒼は顔を真っ赤にしてTシャツの裾を引っ張った お仕置きに と、蒼が後ろから水をかけながら追いかけてくる。あぁ…幸せだなぁ… 「――ってぇ夢を見たんだ」 「あらぁ、あなたにしてはまともじゃない」 「あぁ…だがな水銀燈。…実はその蒼星石…よく見たらさ…梅岡だったんだよ…」 「……あなたって本当におばかさんね」 「…かもね。なんか最近自覚しはじめたよ」 「ヤクルトいるかしら」 「うん。いただきます」